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TEE Case 13:pump failureの診断 [TEE_case]

心室機能が低下した状態,すなわちpump failureで起こることは
単純化すると(当たり前の話ですが)二つだと思います。
すなわち上流のうっ血,下流では低心拍出です。
左室がやられた場合,上流は肺ですから肺うっ血,
そして下流は全身なので全身の低灌流が起こるということになります。

ではこれらの事象は心エコーでどのように捉えることができるでしょうか?

症例1

この症例に肺うっ血はありますか? 低心拍出だと考えますか?

症例2

この症例に肺うっ血はあるでしょうか? 低心拍出だと考えますか?

やや?かなり?トリッキーな問いですが…すみません

みなさんはどう思われましたか?
答えは…「このエコーでは分からない」が正解だと思います。
ほんまにすみません。やはり問題としては今ひとつですね。

症例1です。大動脈弁狭窄の術後一日目の画像です。
非常に動きが良く,asynergyもありません。全く問題なし!
でも実はCardiac indexは1.5L/min/m2でした。
もちろん肺うっ血はありませんでしたが…。

症例2はどうでしょうか。全体として動きが非常に悪いですね。
おそらくEFは20%ぐらいでしょうか。さぞかし悪いのでは…
と考えてしまいます。
でも,肺うっ血は軽度あるものの,Cardiac indexは2.8L/min/m2
でした。拡張型心筋症の患者さんです。

このようにpump failureの二つの大きな所見である,
うっ血と低心拍出をエコーだけで捉えるのは難しいのです。

ドプラーでいろいろ測ればできるじゃないか!と思われるかもしれませんが,
忙しい術中にいろいろやってられないですし,測定した値の解釈は難しい。
もちろん,他の測定方法(例えば熱希釈法など)と相関するとは言われて
いますが,その時々の値がどのくらいずれているかというのはわかりません。

私の最近の口癖は「エコーでなんでもわかると思ったら,大間違いやで」です。
エコーでわかること,わからないことをよく知った上で,
他のモニターや診断方法と組み合わせて解釈することが
エコーを患者さんのために生かすために重要だと考えています。

まあ,当たり前といえば当たり前の話なんですが…



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コメント 5

フェンタニスト

いつも拝見させていただいています。一つ質問させていただいてもいいですか? 上のようにCIとエコーの見た目が解離する症例は結構ありますよね。症例1のようなCIがもうちょっとだけどエコーは問題なしの場合、ボリュームをいれるなどしてCIを上げにいくべきなのか、経過観察でいいのか、また、症例2では、CIは十分あるけどエコー悪いから、強心薬をかまして動きをよくしにいくべきなのか、それとも、CIはあるから、強心薬なしでこのまま経過観察するべきなのか、どうなんでしょうか?先生はCIとエコーの見た目、どっちが大事だと思われますか?どっちも大事だとは思いますが。とすると、肺動脈カテなんなりで、CIを測る意義がでてくるんですよね。変な質問ですがよろしくおねがいします。
by フェンタニスト (2008-10-16 11:31) 

nagare-anes

フェンタニストさん,コメントありがとうございます。

Cardiac index(CI)とエコーの見た目,どっちが大事か?
これは,やはりどっちも大事と言わざるをえません。
心エコーでは低心拍出,末梢循環不全の診断は難しいので,その発見はCIということになりますね。そのうえで心エコーでなぜそのような状態になっているのか,そしてどう介入するべきかということを判断するということになるでしょうか。

CIの値がO2 deliveryに不十分と考えられる時にはエコーの見た目に応じて,何らかの介入をすると思います。

症例1のケースは外科の先生がいろいろ悩みながら管理されて,収縮期の肺動脈圧も25~30ぐらいで,CVPも10ぐらい,ボリュームもそこそこ入っているし,ドブタミンまでつけられて,なお血圧とCIが低いし,SvO2も60%前半という状況で,心タンポナーデが心配なので診て欲しいという依頼で経食道心エコーを行いました。心タンポナーデは否定され,hypovolemiaと判断し,さらにvolume loadingを行い,簡単にLOSの状態から離脱しました。

症例2はあんな動きではありましたが,CIもそこそこだし,SvO2も75%ぐらいだったので,そのまま経過観察です。

pump failureで起こる二つの事象,上流のうっ血と下流の低心拍出。
全身麻酔中はどちらも把握が難しいのですが,特に低心拍出・末梢循環不全の診断が難しいのではないかと考えています。
うっ血と低心拍出,そしてO2 delivery。この3つが一度にわかるPACというのは,実はすごいカテーテルなのだと思っています。

お答えになっているといいのですが…
by nagare-anes (2008-10-18 09:53) 

このあいだまで心臓麻酔いっぱいしてましたがやめました

「エコーでなんでもわかると思ったら,大間違いやで」 いい言葉です。「ちゃんと麻酔できんとどうにもならへんで」を付け加えさせていただきます。心臓麻酔を行なう者はあらゆるデーター 患者の状態を総合して答えを出し麻酔を行なう必要があります。 エコーは重要ですがそれがすべてではありません。エコーだけならたとえ術中エコーであっても内科医のほうが優秀でしょう。 
導入されようとしている心臓麻酔専門医の認定条件に JBPOTばかりが強調されませんように願っております。
by このあいだまで心臓麻酔いっぱいしてましたがやめました (2008-10-19 15:53) 

SH

症例1はASで左室壁が厚くLVEDVが小さいので,ある程度のfillingがないとCO/CIは増えません.DOBのようなβ作動薬を下手に使うと,拡張障害が生じてしまいますので要注意です.適切なvolumeを探しつつ心拍数を上昇させないように管理しなければなりません.ASの術後の管理は結構難しいのです.
症例2はDCMでEFは低くても適切なLVEDFの状態では必要最低限のSVが得られますから,実際には症例1よりも管理は行ない易いのです.こちらはDOBのようなβ作動薬がよい方に働くことも多いですが,ARVDのようにβ作動薬で不整脈が誘発されるような場合があり注意が必要です.
今のPACの最大の利点はSVO2が連続的に測定できることで,CO/CIはおまけのようなものです.あとPAPが計測できることでしょうか.
by SH (2008-10-24 21:05) 

nagare-anes

このあいだまで…先生,コメントありがとうございます。
お元気でらっしゃるのでしょうか…。
それはともかく…。

> 心臓麻酔を行なう者はあらゆるデーター,
> 患者の状態を総合して答えを出し麻酔を行なう
> 必要があります。エコーは重要ですがそれが
> すべてではありません。

全くその通りだと思います。エコーにこだわりすぎてはだめで,他のモニターと同様,さまざまな情報を総合して判断しないと,とんだmisleadになってしまいますね。

エコーでは見えない,わからないということを判断するのも
とても重要だと思います。

by nagare-anes (2008-10-24 22:37) 

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